佐藤総合計画


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社長 細田雅春メッセージ

都市農業への期待
都市と農業の融合が示す国土の未来―その2 コンパクトシティー構築にも寄与

 筆者は、1月22日付の本紙に「農業の未来と都市化」と題して都市と農業の融合が示す国土の未来像を示した。TPP(環太平洋経済連携協定)の影響がどこまで出るのか、現状では未知数ではあるが、国内の農業事業者の多くは不安を隠せないでいる。そうした事態を鑑みてか、昨年4月に制定された「都市農業振興基本法」に基づいて、このほど農林水産省が示した「都市農業振興基本計画」の素案は、市街化区域内にある農地を都市の中の貴重な緑地として保全する方向に舵を取ろうとしている。国土交通省も、2016年度予算案に「都市と緑・農が共生するまちづくり」の推進を盛り込み、低未利用地などの積極的農地利用を促進する流れを生み出そうとしている。

−輸出型農業への期待

 こうした動きはすべて、これからの社会動向の変化に基づいた都市政策と農地への積極的関心の引き上げを図りたいという考えからである。そして政府による基本計画が策定されたのち、地方自治体が自らの責任において土地利用を図るために、農地所有者の税負担、相続税などの税制上の配慮も考慮されるという。しかしながら、地域政策や産業政策の具体的中身についての指針は示されてはいない。都市緑地としての期待も盛り込まれているが、それは、農業事業者の不安を取り除くものではないようだ。

−日本の抱える問題

 では、日本の農業は、世界市場という新たな場面に直面して、どのような方向を目指すべきなのか。そこに現在の農業事業者の悩みと苦しみがあるのだが、農産物およびその加工品などの輸出はかつてないほど勢いがある。政府もTPPなどへの配慮もあって、内政だけでは解決できない問題に対して、優良な日本農産物を海外へ送り出す政策に着目し始めた。例えば、関税撤廃のチャンスをとらえ、検疫や通関の簡素化により輸出に関する手続きの大幅な迅速化を打ち出したことは大きな前進である。
 先の拙稿で筆者は、オランダの事例を挙げて、日本の農業政策に寄与するであろう点は学ぶべきという旨の提案をした。国内消費に頼らず、相手国のニーズに迅速かつ適格に応えて輸出の最大化を図ろうという戦略である。しかしながら日本では、関税の撤廃により海外からの安い農産物が国内の農産物を駆逐するという、内向きの議論ばかり多い。加工品を含め、日本の農産物の海外での評価はすこぶる高いのだから、内向きの議論を脱して輸出に眼お向けるべきではないのか。そうなれば、後は、いかに速やかに個別の生産地から自由に迅速に海外へ持ち出せるかの問題である。その一歩が動き出したことは、大いに歓迎したい。
 一方、既に述べた部分もあるが、日本の農業にも問題はある。細長い国土に高温多湿、四季の変化など世界にも稀な変化にとんだ気候風土を持ち、地域ごとに特色ある農産物の生産拠点が出来上がっているのは日本の農業の特色とも言える。ただ、その多くは零細農業、兼業農家であり、地方都市の現状や少子高齢化の進展を見る限り、次の担い手も期待できないという行き詰まり状態に差し掛かっている現実が大きな問題だ。

−農地の施設化で新展開

 したがって、都市農業を都市の重要な産業として位置付け、老若男女、誰でもが農業に参画、従事できる農業のあり方をはじめとして新たな施策が素案で示されていることは評価したい。その上で、日本の農産物へのこだわりも注目しなければならない。日本の作物の高品質には世界のどの国のそれよりも高い評価が与えられている。工業製品の評価と同様にそのレベルの高さには注目が集まっている。だからこそ、都市農業においてもこだわりと高品質がきちんと保たれる必要がある。
 筆者の「都市と農業の融合論」は、単に都市緑地や高齢者の参画、都市部の未利用地の農地転換を言うだけではない。小さな農地でありながらも、職住近接で老若男女が身近に寄り添うことができる都市農地の可能性が一つ。
 もう一つは、日本の厳しい自然環境に直接立ち向かわなくとも、そして農業の専門的経験や知識が乏しくとも、農業に従事することが可能になるように「農地の施設化」を行い、農作物の生育環境の最適化を図ろうというものである。厳しい外部要因をIT(情報技術)の助けも得ながら排除することを、農産物の種類によって仕分けて行こうというものである。

−新たな都市景観の創出

 農地の施設化とは、言うまでもなく農地の人工環境化である。適切に管理された環境下であれば、農業経験に乏しくとも、意欲と体力があれば十分に働けるし、それこそ老若男女の参加が促されるだろう。加えて、農産物の品質を一定に保つことが極めて容易になる。そして、施設化にあたっては、農産物の種類や内容においてさまざまな形式や規模が入り混じることも踏まえて十分に検討する必要があるだろう。
 素案でも都市農業による良好な都市景観の形成に期待しているが、筆者も建築家として、農地の施設化と緑化保全の都市景観にはこだわりたいと考えている。施設化とは目に見える形が立ち上がるものだけではなく、視覚的には隠れた場所であっても、農地の生育環境の整備を支援する装置化も考えられる。
 目に見える形はそれこそ千差万別である。クリスタル・パレスを思わせるものもあれば、ガラスと木によるトラス構造の美しさが光るものもありうる。ほかにもLED(発光ダイオード)照明の効果的利用など、考えうる施設化にはさまざまであるが、そうした施設化をしない方がよい場合もあるだろう。そうしたすべてが都市のランドスケープ化して美しい潤いのある都市景観を生み出すことが期待されることになる。

−日本型小規模農業の勧め

 以上から導き出されるのは、日本型農業の一つのあり方である。小規模であってもITを積極的に活用し、高品質な農産物に加えて、誰でもがその育成に参画できる都市型農業のあり方を示すことである。場合によっては、育成環境に見合った施設化が必要となる。言うなれば、建築化といってもいいだろう。建築とオープンエアーの緑地(農地)とが相まって、都市と農業が融合した新しい風景が見えてこよう。
 ここで重要なことは、都市農業への参加を具体化する施設化に対する自治体の裁量だ。民間人の参加のハードル―申請、許可制度―を下げていく必要があるだろう。地域政策、産業政策にもインパクトを与える第一歩となる必要がある。こうした都市農業への施策は、これからのコンパクトシティーの構築に大きく寄与することは間違いない。

日刊建設通信新聞 2016年2月26日掲載



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