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社長 細田雅春メッセージ

天井問題から建築を考える

 東日本大震災以降、建築の非構造部材、とりわけ天井の耐震化が強化されてきた。天井を支える構造材の強化、照明器具や設備機具の取り付けの強化を図る一方、幕などによる天井材自体の軽量化、そしてさらには、天井を張らない手法などにより、天井からの危険な脱落・落下が起こらない建築を目指そうというものである。
 元来、近代以前の建築においては天井を二重に仕上げて、その懐を有効に使うという工夫、方法はほとんど存在していなかった。とりわけ西洋建築では、直接床裏または梁型に多彩な化粧を施して、美しく見せる方法を取っていた。古典的な西欧の建築においては、素晴しい天井画(フレスコ画)が描かれ、空間の醍醐味は天井にあるとされていた。高い、見上げるような天井によって、その下に展開する空間に生命が宿るとまで考えられ、天井への関心が多く注がれてきた。すなわち、二重に天井を設えて、天井裏をつくるという発想が全くとは言えないまでも、ほぼなかったのである。
それが近代に入って、さまざまな機能的合理性が問われてくるようになると、むしろ「空間のもつ力」を表現することよりも、さまざまな機械設備の技術的進歩を受けて、人間のための快適性、効率性などの合理化が求められた結果、上階の床下と天井面の間を有効に使い、空調ダクトやさまざまな器具や配線類をそこに隠蔽してきた。そして、その下に展開する空間は、機械的・合理的な均質性を享受してきたのである。近代以降の建築においてはそうした天井面に多くの装置を組み込むことで、誰にでも同じようなサービスが受けられるような空間の合理性と快適性を生み出してきたのである。
 このような天井の変化を促し、建築の近代化を進め、建築の可能性を大きく拡大してきたのは、構造材の進化も要因の一つではあるが、それ以上に設備的な技術開発の進化が大きく寄与してきたと言えるだろう。

−近代建築を育んだ人工環境

 例えば、ニューヨークの摩天楼を可能にしたのは、まさに高速に人やモノの垂直運搬を可能にした機械であるエレベーターの発明があったからである。また、自然通風や自然換気にこだわらなくてもすむ空調システムの開発も大きかった。開口部の少ない気密性の高い建築が可能になったのである。

 そしてさらに注目すべきは、タングステン・フィラメントによる白熱灯に比べ、発熱量の少ない蛍光灯の発明である。その建築への寄与は、計り知れないほど大きい。蛍光灯は1937年に米国のGEから発売が始まり、第二次大戦以降、その効果と実用性の高さから、大型ビルの開発にはなくてはならない器具として近代建築、いや現代建築の大きな発展を支えてきたのである。現代ではLED(発光ダイオード)照明など、さらに進化した照明器具が次々に発明・開発され、実用化が進んでいるが、当時の蛍光灯の発明は、きわめてインパクトが大きかった。もちろん、空調との連携を忘れることはできないが、室内の奥行き深く、すなわち窓面から遠いところまで、発熱量が少ないまま、高い照明効果を発揮でき、その結果として床面積を大きくする建築が可能になったのである。
 日本にもいち早くそうした技術は導入されてきたのだが、なんと言ってもニューヨーク摩天楼の開発が飛躍的に建築の近代化を進ませたことは間違いない。まさに、こうしたエレベーター、空調機、そして蛍光灯という発明があって、建築を進化させ、近代建築を一層強固な存在へと変えてきた。それらの発明は、世界の建築環境を一変させてきた功績によって、近代建築の「三種の神器」とまでいわれるほどだ。
 その意味では、まさにこの「三種の神器」こそが、近代建築、ひいては現代建築を限りなく発展させ、まさに現在私たちが享受している都市文化をつくり上げてきたのである。こうした近代建築が追い求めてきた合理性、経済性、利便性などへの回答は、建築の床面を最大限に開放することであった。その目的のために目を向けられたのが、床面に対する最も影響の少ない天井面であった。確かにその有効利用は効果的である。近代建築・現代建築において、機械的設備による人間のためのアメニティー創出には天井面の有効利用は不可欠だった。しかしながら、注目すべきはそのために何が起こったのかということである。
 地震国日本の課題は、止まることを知らない。東日本大震災の惨状を受けて、建築の耐震化の見直しが始まった。課題の大半は、構造部材と構法とその解析にあったが、非構造部材がもたらした悲劇の大きさが改めて認識されるにつれ、建築そのものに対する安全性が問い直されてきたのである。つまり、単に構造部材、非構造部材といった部位のレベルで片付けられるような問題ではないことがわかってきたのである。
 筆者はとりわけ、天井問題について、建築空間の利便性を求めるあまり、天井面に多くの設備を集約させることで、時には建築空間が均質化してきたという問題について考える良い機会になると考えている。人間が機械に依存し、かつ類型的な快適さを求めることへの執着をゆるめていくことが、天井に対する無自覚な合理性への盲信を解放し、「建築への自由度」を高めることの意味を、改めて考える必要があるように思える。それは一人ひとりの居場所と選択の道が開かれてもよいのではないかと考えるからである。

−自然環境との共生

 これからの建築には、均質的な数値化された人工環境に頼らない方向を目指すことも重要だろう。そうした流れに呼応するように、最近の大型建築でも木造化が促されているという傾向は好ましく思っている。日本の伝統的建築表現とも連動することだが、木造建築の木組み(小屋組み)などの美しさは、その下に展開する空間の豊かさを生み出すものだ。このような空間に対応する、環境制御のあり方については、「三種の神器」だけでなくさまざまなハイテク、ローテクを交えた工夫を基に考えることこそ、本来の建築のアプローチであると思う。
 いま、建築を変えるには、技術的なアプローチによる空間の均質化や環境制御とは逆の方法が不可欠だというのが筆者の思いだ。現在、天井面からの危険物落下問題のために、一つは法律などの整備が施行され始めているが、主な目的は非構造部材の強化と軽量化である。そのことへ水を差すつもりなど毛頭ないが、人間のアメニティーを追求してきた結果、近代建築・現代建築が無自覚に行ってきた建築の設備的人工環境のあり方にも問題があるのではないか。時代の要請はすでに人工的な環境整備よりも、自然環境といかにして共生していくかにシフトしつつある。

−建築をとらえなおす契機

  この天井問題をただ耐震性強化の問題として捉えるだけではなく、建築空間や設備機能のありようを考え直すことで建築の天井のありようを問いかけ、さらに建築空間そのものを捉えなおす契機にすべきと考えている。もちろん、問題はそれだけにとどまらない。開口部や外壁のあり方についても同様である。エネルギー負荷、光や風など自然環境の取り入れ、室内はもちろん街並みの景観との調和など、課題は枚挙にいとまがない。そうした課題に応えるには、現代社会が抱えているさまざまな問題を抜きにすることはできないが、単に現代社会に背を向けて自然に戻ればよいわけでもない。時代が求める建築のテーマとは何かを考える契機となることを、この天井問題を通して考えたい。

 

日刊建設通信新聞 2015年5月29日掲載



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