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社長 細田雅春メッセージ

生活居住地は高台か、平地かを考える 平地に住みつつ幾重にも安全策構築

 3・11東日本大震災は、三陸の太平洋岸の都市とその住居の多くを奪った。これに加え、二万人に上る死者と行方不明者の数を考えれば、気の遠くなる悲劇である。一方、生存者も、居住環境を喪失した多くは生活の基盤を失い、故郷を捨てざるをえない状況に置かれ、多くが地元を離れた。しかしながら、移転を余儀なくされた被災者は、できることなら元の地に戻りコミュニティを回復したいと考えている。そのためには、厳しいようだが、次の条件が整わなければ難しい。その一つは、元の場所の安全性が確保されるか。二つ目が、雇用が確保され、経済的自立ができるか。三つ目がインフラ(市役所、病院、学校など)の回復の見通しがついているか。この三点が整備される可能性が見えるということが極めて重要である。
 日本の地形と気候的特色は居住地を制限する大きな理由である。四方が海に囲まれた島国であり、高温多湿な気候で、急斜面が多く、河川も急流であることが、諸外国には見られない特色である。そうした環境の中で、特殊な場合を除けば、少ない平地に高密度で住まうという形式が進化してきたのである。河川の氾濫時にはとりわけ多くの悲劇が生まれ、また傾斜地や山裾近くでは地滑りや表層、深層崩落が繰り返されてきた。日本人は、そのような日常の生活の背後にある環境と厳しく向き合い、その環境に対して優先すべき対策を講じ、さまざまな状況における安全性を踏まえて「住むべき環境」を模索してきた。
 言い換えればそれは、自分たちが選択した環境に対して、多くのリスクを排除する努力を次々に試行してきたということである。例えば、危険水量の調整と安定供給可能な水源のためにはダムを、また河川においては河岸壁の設営や川幅の拡張、堤防の整備などのさまざまな対策を行ってきた。また河川近くの住宅ではピロティー形式として一層かさ上げした住宅をつくるなど、水害に対する安全策を幾重にも施し、多くの経験を生かして修正を繰り返しながら、悲劇を極小にする試みを行ってきたのである。
 地震については、今更言うまでもない。国の定める耐震基準の見直しにも、その歴史は刻まれている。無論、建築物に留まらない地盤や地質などについても未整備の課題が多くあることを看過することもできないが、「現在そこにいるという環境(場所)」に、私たちはさまざまな英知を駆使して安全性を取り込んできたのである。安全性が先に存在するのではなく、すでに示したように「住むには不都合な場所」であっても「住むことを余儀なくされる場合」がありうるからなのである。その意味では、安全性は私たちが選択した事象や物に対して、いかに後天的に取り入れていくかという問題であって、すべての事柄や状況に先行させられるような安全性などはありえないことなのだ。
 人間は多くの経験の中から、さまざまな自然の驚異に対して、守りや安全な対策を練り上げてきた。例えば、強風や火災に対する屋敷林なども、小さいけれども生活の中から生まれてきた仕組みだ。しかもそれは、景観や人間や生物との共生をも取り込んだ優れたものである。しかしながら、現在の巨大化した都市に対してそうした自然の素材だけで安全を生み出すことも不可能だ。都市生活に見合った安全性をどのように構築するか、科学的判断は不可避であろう。
 以上のような総合的視点に立てば、震災後の居住地を、単に安全だからという理由で高台集団移転するという論議は無謀というほかない。高台移転はよほどの場所に恵まれなければ困難であるというのが筆者の見解である。すでに別稿でも述べているように、今回の被災地の復旧の原点は、三陸縦貫道と東北横断道路の整備である。しかもそれの構造は、土盛りによる高さ10m前後の防波堤や防潮堤を兼ねたものにし、さらには道路の海側には瓦礫を処理してつくった小山を連続的に配し、緑と豊かな海岸域の風景と公園的機能を並立させ、さらに津波に対する抵抗を期するというものである。そして、本題の居住地は道路を挟んで、内陸側の平地に確保し、大きく利便性をそこなうことなく再生、復興を成し遂げるというものである。また、湾口防波堤も津波の浸水高さや流速、遡上高さ、到達時間の減速などに、極めて高い減災効果があったことも忘れてはならない。平地へ住みつつ、幾重にも安全策が講じられた環境構築が不可欠だということである。もちろん、それらへの過信は避けなければならないが、さまざまな日常的経験知を積み上げることで大切なことを肝に銘じ続けることができる。そうしたさまざまな安全策を講じた上で、最後の砦として、高台への避難経路の確保と周知を忘れてはならないのである。

日刊建設通信新聞 2011年9月30日掲載



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