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社長 細田雅春メッセージ

巨大地震が突きつけるもの あらゆるセルフエイドが機能しない

 東北地方の太平洋側一帯がマグニチュード9.0という未曾有の巨大地震に見舞われ、大津波と福島原発の崩壊によって、事態は最悪な状況に近づきつつある。
 世界の関心も、日本でのこの惨事に向けられている。このような事態が彼ら自身に降りかかる恐れを想定しているのか、その注目度は尋常ではない。その意味でも日本の災害に対する対処の方法が試されていることは言うまでもない。
 しかしながら、現実にはメディアの報道を見る限り、その多くが後手に回り、現代社会が用意してきたセルフエイド(幾重にも施された安全装置)のシステムがほとんど機能していない。

矛盾と脆弱さ、世界経済にも

 これはどうしたことなのか。われわれが造り上げてきた、高度に文明化したといわれている社会とは、その程度のものだったのだろうか。今回の地震で現代社会が抱えている矛盾と脆弱(ぜいじゃく)さが露呈したが、これは日本だけの問題というよりも、グローバル社会に突きつけられた問題だと考えるべきであろう。とりわけ、異常とも思える事態が世界経済の動向である。
 震災後の世界経済において、日本の株価急落は当然としても、急激な円高が引き起こされた。なぜこのような危機下の日本で、円高が進むのか。本来ならば、円安が進行してもおかしくない事態なのだが、一説には世界のヘッジファンドが動いて、円高を誘導しているという。
 本来ならば、中東情勢や欧州金融不安などが、むしろ円高を支えてきた感があるが、それ以上に海外の投資家は、地震などの巨大災害は円買いを目論むという方向に流れたという。しかしこの流れも、極めて流動的だ。事態の深刻さによっては、その逆の流れも誘導されることになりかねないからだ。
 何が経済を支配しているのか。果たして、経済に正義はあるのか。そのような陳腐な疑問を持ちながら、経済と現実社会の問題を考えてみたが、その方程式は解けるどころか、ますますその深みにはまるという悪循環に陥っている。現代文明とはどこに向かい、何を人類に問いかけているのか。
 そうした問いかけは、現代文明の進化に伴って培われるべき中身が、その巨大な輪郭に伴わず、あらゆる進化の総合という形には程遠い世界に向かいつつあるのではないかということだ。ウェブ社会の進化は、ほとんど今回の震災には役立たなかった。最も基本的な人間の絆(きずな)以外にほとんど目に見えることはなかったのではないのか。

バーチャル化し失われる現実感

 ひるがえって、建築界も同じような進路を歩みつつあるように思える。経済が異常に支配を強めている現実に、誰も声を出してブレーキをかけようとしない。建築工事の入札の低価格化の異常さには驚くほかない。メーカーや下請けという、現実の仕事をする人たちへの正当な対価など、それこそ崩落している現実に声を上げる者はいない。それは他人事だからである。
 原発の崩落も放射能という危機意識がなければ、多分に他人事の世界の話になるだろう。現実の社会という問題が、いかにバーチャル化して、わが身にじかに伝わる感覚を麻痺させているかということである。
 グローバル社会の本質は、結局のところ肉体を離脱したバーチャルな世界に生きるということなのか。局所的な現実には痛みや喜びという感覚を伴うものだが、バーチャル化した世界では、知識や情報としての事実が飛び交うだけで、現実の感覚を持つことはないのである。現実の事件が経済を誘導するが、その経済がバーチャルな世界を支配する。
 いまわれわれの身の回りに生起しつつある建築がそのようなトレンドの渦の中にあることを、この大災害という場面を通して考え直すことができればと思うが、それは不可能な話だ。

日刊建設通信新聞 2011年3月22日掲載



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